浄土真宗本願寺派 福岡組 情報配信所

仏様のおはなし新シリーズ 第94集　「苦しい悩み」

　先日、私の旧来の親友に打ち明けられた事があります。彼女が、中学、高校の間、彼女の父親は不倫をしていたそうです。その後何年も経ち、家族は関係を修復できたと思っているが、結婚して子を持つ母親になった今、父親の裏切り行為を思い出し嫌な気持ちがよみがえってくる、とのことでした。そして父親が生きている限り、憎い気持ちは解消されないと思う。とのことでした。話を聞いた時私は、一友人として、全く彼女の気持ちに同情してしまいました。当時の彼女や、家族はどんな辛い気持ちだったか、計り知れません。
　ではこの怒りは、仏様の心ではどうあらわれるのでしょうか。仏様は、罪とは、人の意思や努力だけでない業縁によっておかしてしまうもので、どんな人間であってもその可能性は潜んでいると仰います。不倫は悪か愛かの前に、厳然たる事実そのものでしかないのです。しかし、人は生まれてから今までに経験を重ね、価値観を形成していきます。その価値観によって、私の判断は正しいと思って生きています。罪をせめたくなるのも当然のことですし、不倫は悪だと思うのもうなずけます。しかしながら、その怒りに縛られ苦しんでいる側わたしが重篤でそのことを仏様は心配され悲しまれているのです。その呼び声に私たちはなかなか気づけないのです。そこで、阿弥陀さまという仏様は呼びかけてくれます、南無阿弥陀仏というお念仏の呼びかけです。南無阿弥陀仏をいただくことによって、言葉で、悪だ許せないと、逡巡していた苦しい心のなかにもお浄土を見ることができます。
　人は誰でも条件さえ整ってしまえば、何をしでかすか分からない。それはどの人にもあてはまってしまう。つまり自分にもあてはまる。そう思うと少しだけ怒りから心がシフトしていきそうです。浄土というほとけさまの世界では、怒りの心は解き放たれ、分け合いと慈しみの心で満ち溢れています。
　もちろん、今すぐに友人に無理にでも怒りを鎮めろとは言えませんでした。友人の父親が不倫をした事実は消えませんし、友人が悲しい思いをした事実も消えません。しかしこのように自分という価値観から解き放たれる、南無阿弥陀仏という世界があると思えるだけでも、私は苦しめられているんだという被害の意識から少しだけ楽になるのではないでしょうか。